テニスプレイ+ステイの利点と課題
こんにちは、Raccoonです。
今回はテニスプレイ+ステイについてです。
プレイ+ステイには大人の初心者のプログラムもありますが、今回は子供のテニスについてです。
テニスプレイ+ステイとは
ITF(International Tennis Federation)から発足した、初心者でも始めたその日からテニスを楽しめる、をコンセプトとしたプログラム。10歳以下の子供のプログラムはTennis 10s。主な特徴としては、従来よりもやわらかいテニスボール、小さいラケットとコートを使用することで誰でも簡単にテニスを始められる環境を作れます。
このプログラムは世界各国のテニス協会でも取り入れられています。Tennis AustraliaのTennis HotShotsやLTA(Lawn Tennis Association)のMini Tennisが有名です。
去年自分がコーチをしていた東京のクラブでも、プレイ+ステイを盛んに取り入れていました。
テニスプレイ+ステイの利点
これまでのテニスの研究から主に分かっているプレイ+ステイの利点は、
1、成功体験を作り出しやすい
2、技術と技能習得に向いている
主にこの二つだと思います。
プレイ+ステイプログラムは成功体験を作り出しやすい
柔らかいボールを使うことで、ボールのスピードを落としバウンドも従来のテニスボールよりは低くなります。そのため、子供達の打ちやすい高さでボールが打てます。
また、低いネットと小さいコートサイズを使うことで、子供の技術に合った移動範囲を作り出すのと、ボールがネットを越えやすい環境を作ります。
小さいラケットは大人サイズのラケットよりも軽いので、子供でも扱いやすいです。子供用のテニスラケットを使うことで、子供のストローク技術が上達しやすくするのではという研究結果も出ています。
これらの環境をレッスンに用いることで、子供達の成功体験(例:簡単にボールを打ってネットを越せる、ラリーが続くなど)を増やすことが可能です。
成功体験は子供の技術と技能の習得を助ける効果があることが分かっています。
子供は失敗するとそれを修正する方法を考えます。失敗する頻度があまりにも多いと、技能と技術の習得を妨げることに繋がります。
もちろん自分で失敗から学んで修正することは大事です。ただ、失敗の頻度を減らしてあげることで子供の技術と技能習得は活性化されます。これはError Reduced Learningといいます。
もちろん、成功体験が増えることで子供たちがテニスをより楽しめるのと、自身をつけるのにも役立ちます。
プレイ+ステイは技術の習得に向いている
これは、人の技術や技能を習得する仕組みの観点からみてです。
人は何かの技術を習得する際、同じ状況を反復して練習するよりも(ブロックプラクティス)、様々な状況を混ぜ合わせて練習(ランダムプラクティス)した時のほうが習得の効率が高いということが分かっています。
例えば、手出しの球出しでフォアハンドを反復して練習するのはブロックプラクティス。逆に、ラリー系の練習はランダムプラクティスになります。
変化する状況に対応しながら特定の技術を行う能力。これを伸ばすことが技術や技能の習得に繋がるのです。
プレイ+ステイプログラムはボールの固さや、ラケット、ネット、コートのサイズを調整することで子供がラリーをしやすくしています。そのため、子供たちはかなり早い段階からラリーを軸とした練習を行うことが可能になり、ランダムプラクティスの機会が増えて技術習得の効率が上がります。
また、フォアとバックのフォームではなく、ラリーからテニスを始めるので戦術面や試合のルールなども早い段階から学べます。
プレイ+ステイの課題
ここまで説明してきた通り、テニスプレイ+ステイは子供たちの成功体験の可能性を高め、技術と技能の習得を助けます。
ただ、これからの課題がないわけではありません。
プレイ+ステイに関して分かっていないことも多々あります。
まず、プレイ+ステイは子供達が大人サイズのテニスと同じような感覚でできるよう、ラケット、ネット、コートのサイズとボールの固さを変えています。
ですが、本当に大人のテニスをモデルとすることが子供達のテニス技術の向上に一番なのか?
大人のようなテニスを目指すことを目的とするのが正しいのか?
これらは現在の研究では分かっていません。
自分は、大人のようなテニスを子供たちにさせることがプレイ+ステイの一番の目的ではないように思っています。
例えば、プレイ+ステイを使うことで子供たちに大人の選手達が使う様なストロークのフォームでボール打たせることは可能です。ただ、大人にできる動きでも子供にはできないものもあるのです。
これはサーブを使った研究でも検証されています。
なので、大人のフォームをベースに子供にストロークのフォームを教えることは効率的ではないかも知れません。
同じように、子供が大人のようにテニスができるから、というのはプレイ+ステイを使うメインの理由ではないのではと思っています。
そして、もう一つの課題はケガの懸念です。
これはDr. Buszardが今年発表した論文でも懸念されていました。
プレイ+ステイを利用することで、子供たちはラリーを長く保つことが可能。また、サーブの入る確率も上がります。これによりサーブを打つ回数が増える可能性もあります(ポイント練習が増えるため)。
ボールをより多く打てることは技術の習得には、大きな利点です。
しかし、ボールを多く打つことによりオーバーユーズのケガの可能性も増えるのではないでしょうか。
残念ながら、これに関する研究はまだ行われていません。
まとめ
プレイ+ステイの登場により、一般的に考えられていたテニスのレッスンの常識は大きく変わりました。
これまではフォームからテニスを始めて、フォームを習得後ラリーやポイント始めるということが一般的でした。
しかし、子供の技能に見合った用具を使用することにより初めてテニスをする子供たちでもラリーができるようになりました。
これはテニスの発展には素晴らしいことだと思います。
まだ分からないことや課題もありますが、プレイ+ステイはこの先のテニスに多大な影響を与えることは間違いないです。
これからもたくさんの子供たちにテニスを楽しんでもらえるよう、イチコーチとしてプレイ+ステイを積極的に取り入れ、色々なアイディアを試していきたいと思います。
今回参照した研究論文
Buszard, T., Farrow, D., Reid, M., & Masters, R. S. (2014). Modifying equipment in early skill development: A tennis perspective. Research quarterly for exercise and sport, 85(2), 218-225.
Buszard, T., Reid, M., Masters, R., & Farrow, D. (2016). Scaling the equipment and play area in children’s sport to improve motor skill acquisition: A systematic review. Sports medicine, 46(6), 829-843.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26780345
Buszard, T., Farrow, D., & Reid, M. (2019). Designing Junior Sport to Maximize Potential: The Knowns, Unknowns, and Paradoxes of Scaling Sport. Frontiers in Psychology, 10.
Farrow, D., Reid, M., Buszard, T., & Kovalchik, S. (2018). Charting the development of sport expertise: challenges and opportunities. International Review of Sport and Exercise Psychology, 11(1), 238-257.
Fitzpatrick, A., Davids, K., & Stone, J. A. (2018). Effects of scaling task constraints on emergent behaviours in children's racquet sports performance. Human movement science, 58, 80-87.